2015年06月07日

死神反駁



エィビス:嫌です。


エルシオ:駄目です。







ゼノックス:なにやら妙な一人芝居が聞こえるけど、どうかした?

エルシオ:あ、ゼノさん。いいところに。

ゼノックス:ん?

エルシオ:紹介します。私の片割れ……いえ、双子の弟エィビスです。

ゼノックス:ほう。弟なんていたのか、ちょっと意外。

エルシオ:ほら、エィビス。謝ってください。

エィビス:……嫌です。

ゼノックス:謝るって何を?







エィビス:……。

ゼノックス:うわ、なにやら殺気がすごいんだけど。

エルシオ:ちょっとエィビス……。

ゼノックス:ああ、この感じ。もしかしてあのとき、エルシオのふりして襲ってきたのがそうでしたってことかね。

エィビス:……。ええ、そうですよ。

ゼノックス:なるほど。双子か、声も雰囲気も同じわけだ。でもよく聞いたら、弟のほうが僅かに声が低いんだな。で?

エィビス:……。やっぱり絶対謝りたくないです。

エルシオ:エィビス。何もしてない人に襲撃したんですからちゃんと謝ってください。







エィビス:……何もしてない? これからするんです。自分は知ってるんですよ、貴方に似たような人間を。貴方も絶対にこの子を裏切ります。危険の芽を摘もうとしただけです。

ゼノックス:なんでおれ、今初めて会った奴に妄想で悪者扱いされてんの?

エルシオ:す、すみませんゼノさん……。……似ていても、違うんです。分かってください。

エィビス:……。

ゼノックス:なんだか話が見えてこないな。んー、以前おれに似た奴がエルシオを裏切ったことがあって、おれもそうなるだろうからまた泣き顔見る前に始末しようってところかね。

エィビス:……そうです。







ゼノックス:根拠は?

エィビス:さっきも言いましたが、似ているからです、あの男に。姿も、声も、雰囲気も、何もかも。惨事はまた起こりますよ。

ゼノックス:それだけ? だからそれを妄想だと言っている。実に短絡的だ。おれ、何かしたか? 具体的に言ってみな。

エルシオ:あの、ゼノさん……怒ってます?

ゼノックス:うん。ちょっとイラっときた。納得いくまでやらせてもらう。で、何かあるか?

エィビス:……斬った。

ゼノックス:故意じゃないって言ってるだろ。埋め合わせもした。まだ文句があるならあの暗いお姉ちゃんに言いな。あとは?

エィビス:……。

ゼノックス:それだけか。……はぁ。思い込みが強くて、変なとこで頑固。なるほど、間違いなく兄弟だね、君ら。







エルシオ:……えっと、あの……。

エィビス:ちょっと貴方、エルシオのことそういう目で見てるんですか?

ゼノックス:うわ、もしかして弟は予想以上に強烈なブラコンか。

エィビス:……本当に殺しますよ……?

ゼノックス:短気だな、そこは似てないね。まぁお互い少し落ち着こう。

エィビス:……。







ゼノックス:で、聞いてるとさ。口では兄のためって言ってるけど、本当のところは、ただ単におれがその男に似てて気に食わないから始末したいだけとしか思えないんだよな。違うか?

エィビス:……そんなことはない、です。

ゼノックス:なぁ、弟。おれがくたばったらめんどくさい事になりそうだとは思わないか? エルシオの主張は知ってるか? 兄弟喧嘩が勃発するのは目に見えてるだろ。兄のことは、おれなんかより弟のほうがよっぽど良くわかっていそうなもんだが。弟は言ってることとやってることがまるで合ってない。結局、おれが死ねば満足するのは弟だけじゃないのか。違うか。

エィビス:……っ。







ゼノックス:……そうか。『使者』ってお前のことか。エルシオが賞金首を狩るなんて妙な話だと思ってた。そりゃそうだ。双子だもんな。魔の者の弟は魔の者だ。

エィビス:……え。今、なんて。

ゼノックス:ふむ、合点がいった。さて、昔その男が何をして弟が何を勘違いしてるかは知らんけど、おれの予想を教えてあげよう。お前、エルシオの弟ってことは同じ『魔の者』、人間じゃないんだろ。

エィビス:……知ってたんですか。

ゼノックス:とっくに知ってる。で、弟が気にしてるのはそのことでおれがエルシオを拒否したのではないかということじゃないのかな。そうじゃないと、今になって弟が姿を現した説明がつかない。

エィビス:……。







ゼノックス:大方、昔のそいつはエルシオの正体を知って何か泣かせるようなことをしたんだろ。予想が外れて残念でした。はい、何か言いたいことは?

エィビス:……貴方、知っててまだ、この子の傍にいるのですか。

ゼノックス:何かおかしいか? それにおれだけじゃない。他にもいるだろ、知ってる友達が。そもそも別に拒否する理由もないだろ。

エィビス:……それは貴方が「見えてないから」です。

ゼノックス:そんなの見えるようになったらそのとき考えたらいいだろ。

エルシオ:……ゼノさん。







エィビス:……はぁ。わかりました。しばらく黙って見ていることにします。何かあったときの覚悟はできてるみたいなので、そのときは遠慮なく『使者』として貴方をむかえにいきますから、そのつもりでいてください。

ゼノックス:ここまで言われてまだそんな態度とれるのか。どれだけ人のこと見下してるのかね。呆れた魔の者様だ。

エルシオ:エィビス。謝ってください。

エィビス:……。

エルシオ:エィビス、貴方何のために来たか忘れてませんよね?







エィビス:くっ……。……すみませんでした。

ゼノックス:はいはい。もういいよ。お前さんが兄貴大好きな弟ってことは、良くわかったから。じゃあ、話はそれだけ?

エィビス:……はい。

エルシオ:よくできました。

エィビス:……うぅ。

ゼノックス:しかし本当に、頭が上がらないんだな。






















……本当に奴が生まれ変わったかのような人間でしたね。
……ありえません。
……あの男は、私が魂ごと消滅させた。
……生まれ変わりなんて、ありえない。
……そんなことは、ありえないんです。


posted by 黒鳥なしら at 00:00| Comment(0) | ししゃのはなし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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